▼ 大腸がんを防ぐ
大腸がんは日本人のがん死亡者の12%を占め、今後その増加が心配されている。従来は病変に気が付いたときには手遅れの場合が多かったが、最近の医学の進歩により潜血反応やエックス線撮影などで初期に見つかり、手術で治療し、生存率も高くなった。しかし、治療よりも予防が大切であることはいうまでもない。
大腸がんは食生活や運動との関連が強いことが判明し、予防可能な生活習慣病とみなすこともできる。とくに脂肪と食物繊維の長期摂取に留意することが必要である。
▼大腸の働き
大腸は約1.5メートルであるが盲腸、結腸、直腸とに分けられる。大腸には小腸で吸収されなかった食物の残渣、すなわち食物繊維、ミネラル、水分などが到達する。ミネラルや水分はそのままの形で吸収されるが、食物繊維は100種類100兆個に及ぶ腸内細菌によってその一部が発酵され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸や乳酸、コハク酸などの有機酸が生じる。短鎖脂肪酸のほとんどは吸収されて、宿主であるヒトの栄養源として利用される。結腸や直腸では便が形成されるが、その大部分は菌体である。
しかし、あまり好ましくない腸内菌によってたんぱく質が腐敗したアンモニア、ニトロソアミン、インドール、スカトール、硫化水素などが作られる。また、肝臓で抱合された有害物が腸に排出され、やはり便に入って排せつされる。これら有害物が排出される前に一時的にしろ貯留されるので、大腸はどちらかというと有害成分によってがん化を受けやすい臓器といえる。
▼大腸がんとは
日本人のがんは部位別にみると、圧倒的に胃がんが多かったが、近年では肺がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんなどが増えている。特に大腸がんが急速に増えており、胃がんが減少してきているのと対照的な消長となっている。大腸がんは女性よりも男性のほうがかかりやすく、加齢と共に罹患者が増える。
大腸がんは隆起型と陥没型とがあり、前者はゆっくりと進行するが、後者は腸壁内層に食い込んでいくタイプで進行が極めて早い。
最新の遺伝生化学の発展は目覚ましく、ヒトは誰でも大腸がんの発現遺伝子(k-ras)を持っていることが判明している。その遺伝子が発現しても進行を抑える抑制遺伝子というのがいくつも関与しており、そのすべてが異常をきたさないとがん死亡にはいたらない。しかし、遺伝的に大腸がんになる家系ではその抑制遺伝子のあるものが生まれつき異常であり、発がん遺伝子の変異とともにがんが多発することが知られている。
このように誰でも大腸がん遺伝子は持っているが、その発現はすべての人に起こるわけではないので、個人の生活習慣の重要性が注目されることとなる。食事はとくに関連の強い因子として注目されている。
▼食事因子と大腸がん
食事や生活様式の工夫によって、完全とはいえないが、大腸がんの予防は可能でないかと考えられるようになってきている。基本的には有害なものを摂取しないことと、予防効果を有する食物因子を積極的にとることの2大原則である。
有害因子としては、種々の発がん物質がある。普通の細胞をがん化させるものは遺伝子であるDNAに変異を起こすものであるので変異原物質と呼ばれる。昔から知られているものとしてソテツのサイカシンがある。これは摂取して、大腸に到達し、大腸内の酵素によって発がん物質に変り、大腸がんをつくるとされている。もっともソテツは飢饉でもないと食べないが、魚や肉の焼け焦げのなかにはニトロソアミンなど10種類くらいの発がん物質ができる。特にグルタミン酸が焦げてできるグルP1は大腸がんをつくる。実際には毎日大量の焼魚を食べないとがんはできないのでそれほど心配する必要はないし、ビタミンCを多量に含む大根おろしを一緒に食べるとニトロソアミンの生成を防ぐことも知られている。腐敗しているものにも発がん成分は多いようであるし、塩蔵食品も要注意である。
脂肪は大腸がん発生と関連している確率が一番高いとされている。その理由として、脂肪を食べると消化吸収を促進する胆汁酸が肝臓で大量にでき、それが腸内微生物によって発がん物質に変化するとされている。あるいは不飽和脂肪酸が酸化されてできるフリーラジカルが遺伝子を傷つけるともいわれている。
筆者らは日本人の過去50年間の脂肪摂取量と大腸がん死亡率との関係を調べたところ、脂肪摂取量は16年の時間差で死亡率との間に非常に強い正相関があった。他の疫学調査においても同様の成績は多数提出されており、油脂のとり過ぎは問題である。ほどほどの摂取量にする必要がある。
一方、前記の調査において食物繊維摂取量との関連を調べると、25年もの時間差で大腸がん死亡率との間に最も高い負の相関を示した。これはがん年齢の45歳になった時点で20歳頃の食物繊維摂取量の抑制効果がもっとも強く現れることを意味している。食物繊維は水に溶けるタイプと溶けないタイプのものがあるが、後者の影響のほうが強いとされている。つまり、セルロースの多いフスマでできた朝食用のシリアルや、黒パン、全粒パン、玄米などが抑制作用が強いことになる。厚生省では食物繊維は一日に20〜25グラムとることを勧めている。
アメリカを中心に最近では野菜や果物に多いポリフェノールなどの抗酸化物質が脂肪の酸化や遺伝子の変異を防ぐことを報告しており、今後の研究の進展が待たれている。
▼運動と大腸がん
運動を日常行っているヒトに大腸がんが少ないことが多数の疫学調査から明らかになっている。その理由はまだほとんど解明されていないが、運動による排便促進が影響したり、ホルモンとの関連も示唆されている。
いずれにしろ、栄養や運動のような生活習慣と大腸がんとの関連があることは事実であり、がんを防ぐ一次予防の可能性があることを強く物語っているといえよう。
http://www.net-dream.jp/
大腸がんは食生活や運動との関連が強いことが判明し、予防可能な生活習慣病とみなすこともできる。とくに脂肪と食物繊維の長期摂取に留意することが必要である。
▼大腸の働き
大腸は約1.5メートルであるが盲腸、結腸、直腸とに分けられる。大腸には小腸で吸収されなかった食物の残渣、すなわち食物繊維、ミネラル、水分などが到達する。ミネラルや水分はそのままの形で吸収されるが、食物繊維は100種類100兆個に及ぶ腸内細菌によってその一部が発酵され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸や乳酸、コハク酸などの有機酸が生じる。短鎖脂肪酸のほとんどは吸収されて、宿主であるヒトの栄養源として利用される。結腸や直腸では便が形成されるが、その大部分は菌体である。
しかし、あまり好ましくない腸内菌によってたんぱく質が腐敗したアンモニア、ニトロソアミン、インドール、スカトール、硫化水素などが作られる。また、肝臓で抱合された有害物が腸に排出され、やはり便に入って排せつされる。これら有害物が排出される前に一時的にしろ貯留されるので、大腸はどちらかというと有害成分によってがん化を受けやすい臓器といえる。
▼大腸がんとは
日本人のがんは部位別にみると、圧倒的に胃がんが多かったが、近年では肺がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんなどが増えている。特に大腸がんが急速に増えており、胃がんが減少してきているのと対照的な消長となっている。大腸がんは女性よりも男性のほうがかかりやすく、加齢と共に罹患者が増える。
大腸がんは隆起型と陥没型とがあり、前者はゆっくりと進行するが、後者は腸壁内層に食い込んでいくタイプで進行が極めて早い。
最新の遺伝生化学の発展は目覚ましく、ヒトは誰でも大腸がんの発現遺伝子(k-ras)を持っていることが判明している。その遺伝子が発現しても進行を抑える抑制遺伝子というのがいくつも関与しており、そのすべてが異常をきたさないとがん死亡にはいたらない。しかし、遺伝的に大腸がんになる家系ではその抑制遺伝子のあるものが生まれつき異常であり、発がん遺伝子の変異とともにがんが多発することが知られている。
このように誰でも大腸がん遺伝子は持っているが、その発現はすべての人に起こるわけではないので、個人の生活習慣の重要性が注目されることとなる。食事はとくに関連の強い因子として注目されている。
▼食事因子と大腸がん
食事や生活様式の工夫によって、完全とはいえないが、大腸がんの予防は可能でないかと考えられるようになってきている。基本的には有害なものを摂取しないことと、予防効果を有する食物因子を積極的にとることの2大原則である。
有害因子としては、種々の発がん物質がある。普通の細胞をがん化させるものは遺伝子であるDNAに変異を起こすものであるので変異原物質と呼ばれる。昔から知られているものとしてソテツのサイカシンがある。これは摂取して、大腸に到達し、大腸内の酵素によって発がん物質に変り、大腸がんをつくるとされている。もっともソテツは飢饉でもないと食べないが、魚や肉の焼け焦げのなかにはニトロソアミンなど10種類くらいの発がん物質ができる。特にグルタミン酸が焦げてできるグルP1は大腸がんをつくる。実際には毎日大量の焼魚を食べないとがんはできないのでそれほど心配する必要はないし、ビタミンCを多量に含む大根おろしを一緒に食べるとニトロソアミンの生成を防ぐことも知られている。腐敗しているものにも発がん成分は多いようであるし、塩蔵食品も要注意である。
脂肪は大腸がん発生と関連している確率が一番高いとされている。その理由として、脂肪を食べると消化吸収を促進する胆汁酸が肝臓で大量にでき、それが腸内微生物によって発がん物質に変化するとされている。あるいは不飽和脂肪酸が酸化されてできるフリーラジカルが遺伝子を傷つけるともいわれている。
筆者らは日本人の過去50年間の脂肪摂取量と大腸がん死亡率との関係を調べたところ、脂肪摂取量は16年の時間差で死亡率との間に非常に強い正相関があった。他の疫学調査においても同様の成績は多数提出されており、油脂のとり過ぎは問題である。ほどほどの摂取量にする必要がある。
一方、前記の調査において食物繊維摂取量との関連を調べると、25年もの時間差で大腸がん死亡率との間に最も高い負の相関を示した。これはがん年齢の45歳になった時点で20歳頃の食物繊維摂取量の抑制効果がもっとも強く現れることを意味している。食物繊維は水に溶けるタイプと溶けないタイプのものがあるが、後者の影響のほうが強いとされている。つまり、セルロースの多いフスマでできた朝食用のシリアルや、黒パン、全粒パン、玄米などが抑制作用が強いことになる。厚生省では食物繊維は一日に20〜25グラムとることを勧めている。
アメリカを中心に最近では野菜や果物に多いポリフェノールなどの抗酸化物質が脂肪の酸化や遺伝子の変異を防ぐことを報告しており、今後の研究の進展が待たれている。
▼運動と大腸がん
運動を日常行っているヒトに大腸がんが少ないことが多数の疫学調査から明らかになっている。その理由はまだほとんど解明されていないが、運動による排便促進が影響したり、ホルモンとの関連も示唆されている。
いずれにしろ、栄養や運動のような生活習慣と大腸がんとの関連があることは事実であり、がんを防ぐ一次予防の可能性があることを強く物語っているといえよう。
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