免疫と食事

ここでは、 免疫と食事 に関する情報を紹介しています。
自然界に存在する微生物が人体に侵入し、本来存在しない場所で増殖することを感染といいます。この結果、宿主となった人に何らかの臨床症状が発症した場合、これが感染症になります。
 感染症にはインフルエンザ(流感)や赤痢、ペストといった人あるいは動物から人への伝播する伝染性感染症と膀胱炎、敗血症、破傷風のように伝播しない、非伝染性感染症があります。前者は以前は伝染病と呼ばれていましたが、近年は流行性感染症と言われています。
 私達は、この様に病原細菌の侵入にさらされていますが、それらを認識し排除する防御機構をもっています。しかし、飢餓とペストの流行の関係のように、栄養状態の低下が感染症の危険性を高めています。現在でも開発途上国では、栄養障害と汚染環境による感染症の発症や下痢で多くの子ども達が死んでいます。また、先進国では悪性腫瘍に伴う栄養障害、あるいは老化に伴う免疫機能の低下で感染症が発症します。
 生体内には、免疫系を中心とした種々の防御バリアーが張り巡らされています。皮膚、粘膜の防御系を突破して体内に異物が侵入すると、異物表面に存在する補体の活性化物質(細菌表面のリポ多糖類など)により補体系が活性化され、補体の産生が起こります。初期防衛に働く好中球が動員されて、食菌・殺菌を行います。続いてマクロファージが集合し、貪食を開始します。同時に、貪食マクロファージは、Tリンパ球に抗原の提示をし、これを受けて種々のTリンパ球と抗体産性細胞であるBリンパ球の分裂・分化が起こり、抗体や感作リンパ球の産生に至る一連の特異的免疫系が機能します。このような機構は、種々のサイトカインで調節されます。異物の処理が終わると抗体や感作リンパ球の産生は低下しますが、免疫学的な記憶は保持され、同一異物の侵入があると直ちに反応します。
 そこで、食事と免疫の主題について述べます。栄養障害、特にたんぱく質-エネルギー栄養障害(PEM)と生体防御機能との関係は以前から検討されています。PEMでは、多くの免疫機能が低下します。細胞性免疫は特に強い影響を受けます。PEMでは、リンパ系組織が萎縮し、胸腺は最も感受性が高くなります。リンパ球の総数には大きな変化は認められませんが、Tリンパ球のなかでヘルパーT細胞であるCD4抗体陽性細胞の割合が低下します。CD8抗体陽性細胞数も低下しますが、CD4抗体陽性細胞ほど強い影響は受けません。CD4抗体陽性細胞数の低下により、細胞性免疫の指標となる遅延型皮膚過敏反応は低下します。抗体産生細胞数も低下しますが、ヘルパーT細胞による抗体産性細胞の補助が低下することによると考えられます。リンパ球によるサイトカイン産生(IL-2、IFN-γ)も低下します。食細胞系は大きな影響を受けませんが、食菌・殺菌作用は低下します。ほとんどの補体成分は低下しますが、C3、C5およびB因子に対する影響が大きくなります。
 上述したように、種々の防御系は栄養状態(栄養素欠乏)で影響を受けます。しかし、影響を受ける程度は防御系により異なり、感染においても主として作用する防御系により影響の程度も異なります。
 細菌性感染症では結核、細菌性下痢、コレラ、呼吸器感染症などは栄養障害で強い影響を受けます。腸チフス、ペスト、破傷風、細菌毒では影響の程度が少ないと考えられています。結核と栄養、特にたんぱく質栄養との関連はよく研究されています。結核患者では、たんぱく質栄養の指標となる窒素出納が負となり、多くの場合体重が減少し、たんぱく質の不足の状態となります。さらに細胞性免疫の指標となる遅延型皮膚過敏反応(DTH)とマイトゲンによるリンパ球の幼弱化反応の低下が認められます。結核感染では、栄養障害からリンパ球機能は低下すると考えられています。
 ウイルス感染と栄養との関連では、B型肝炎ウイルス(HBV)、最近ではHIV感染における栄養状態がよく検討されています。麻疹、ヘルペス、呼吸器感染などは栄養障害で大きな影響を受けます。インフルエンザでは、抗体産生が低下します。天然痘、黄熱病、ポリオでは比較的影響が少ないと考えられています。HBV保有者の国別発生率と各国民の一日平均たんぱく摂取量との関係がまとめられています(「日本人の栄養所要量、第五次改定」)。たんぱく質摂取が一日平均50g以下の国では、保有者の割合が約10%と著しく高くなっています。反対に、一日のたんぱく質摂取量が90gを越える国では、保有者の割合は0.5%以下となっています。
 一方、HIVは現在最も精力的に研究が進んでいるウイルス感染です。HIV感染では、血清やリンパ球のグルタチオンレベルの低下が観察されます。グルタチオンは細胞内の酸化・還元状態に影響しますが、それがTリンパ球機能の低下あるいはウイルスの増殖と関連すると考えられています。たんぱく質の摂取量は、組織や血液中のグルタチオン濃度に影響します。グルタチオンの前駆体であるシステインの誘導体であるN-アセチルシステインの投与で、HIV患者のリンパ球グルタチオンレベルの改善とウイルスの増殖抑制が観察されています。抗酸化作用のあるビタミンCにも、HIVの増殖抑制効果があることが実験的に認められています。HIV感染患者の30〜50%では体重が減少します。その程度は病態の進展によりますが、患者の栄養状態と密接に関連します。その原因として、食欲不振、嘔吐などによる栄養摂取量の低下、消化管での吸収不全、栄養素の排泄増加、栄養素の利用性の低下および栄養素要求量の増加などが考えられています。微量栄養素の不足は、たんぱく合成、細胞性免疫、サイトカイン産生を低下させます。したがって、栄養障害もHIV患者の易感染性の原因の一つになっていると考えられます。

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2008/03/10(月) 16:52:56 |