現代社会はストレス社会といわれます。職場では人間関係や配置転換、昇進などに悩み、家庭では家族の死、家庭不和、住宅ローンの重圧、子どもの受験など、多くの人がさまざまなストレスを抱えています。しかも、最近では、子どもにまでストレスによる健康障害が目立つようになり、子どもの胃・十二指腸潰瘍や心因性の視力障害などが増えています。受験戦争や深夜までの塾通いなどのストレスが原因と思われます。
しかし、ストレス対策はまだまだ十分とはいえません。心身症で胃腸などの消化器官に障害が起きると、当然、食事や栄養摂取にも影響が出て、問題はさらに大きくなります。そこで、食事や栄養とストレスの関係を探り、ストレス対策を具体的に考えていきましょう。
ストレスのメカニズム
人間のからだはある刺激(ストレッサー)を受けると、これに反応して、刺激の影響を最小限に抑え、普段の状態を保とうとする働きが起こります。この反応をホメオスターシス(恒常性維持機能)と呼びます。しかし、ストレスが長く続くと、ストレスに対する抵抗性が低くなり、抑制がきかず、もとの状態にもどりにくくなります。ホメオスターシスの維持は、自律神経系やホルモンなどの内分泌系がつかさどっています。
1 ストレスと自律神経
・自律神経の働きの乱れは胃潰瘍の誘因に
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経は争いをしているときや、恐怖を感じているときなどの緊急時に活動し心拍数の増加、血管の収縮、汗の分泌増加などの作用をします。
一方、副交感神経は平常時に唾液や胃酸の分泌を増やすなど、胃腸の働きを調整するために作用します。この2つの神経系は、エネルギーを消費する方向と回復する方向の両方にバランスよく働いています。
ところが、からだが危機にさらされると、自律神経系のバランスが崩れます。例えば、精神的・心理的なストレスが加わると、交感神経系は胃壁の血管を収縮させます。すると胃の組織に栄養分や酸素が十分行きわたらなくなるので、胃を守ろうとする要素が弱くなります。しかも、副交感神経系の働きで、胃液の分泌が増え、胃壁は攻撃されます。つまり、交感神経と副交感神経の働きが乱れると、胃の粘膜が傷つき、胃潰瘍の原因になります。
また、心身症の代表的な疾患である過敏性大腸症もストレスが原因で起こります。これは下痢と便秘が交互に繰り返される疾患ですが、これも胃液の分泌を増やす副交感神経の働きと、胃腸の働きを抑制する交感神経の働きのために起きる症状です。胃腸の異常は食欲や消化・吸収にも影響を与え、ともすればストレスによる栄養不足を招きかねません。
2 ストレスとホルモン分泌
・ストレスで、ホルモンの分泌が増える
ストレスは、脳にある副腎皮質刺激ホルモンを分泌させ、糖質や脂質、タンパク質といったエネルギー代謝をさかんにします。
他にも、骨の成長やタンパク質の合成を促す成長ホルモンや代謝をよくする甲状腺刺激ホルモンの分泌も増え、酸素の消費量が増加します。つまり、ストレス時には、たくさん分泌されるホルモンのため、エネルギー代謝がさかんになり、多くの栄養素が消費されることになります。
3 ストレスと脳内神経伝達物質
・脳内神経伝達物質は学習・思考・記憶に関係する
ストレスによって心にまで変化が起こるのかどうかを科学的に説明することは因難です。ただ、脳にある、学習や思考、記憶に関係が深い神経伝達物質の働きは、ストレスによって変化することが動物実験によってわかってきています。ストレスが加わると、ノルアドレナリンという脳の神経細胞から出る刺激伝達物質がたくさん分泌されるようになるため、ストレスは情緒や記憶などに対してもなんらかの作用を及ぼすと推測されています。
ストレスと食事の関係
1 ストレスと食欲
・ストレスの影響は食欲にもあらわれる
悲しいことがあると、食事がのどを通らなかったり、イライラしてやけ食いをしたという経験がある人は多いのではないでしょうか。
食欲をコントロールしているのは、脳にある満腹中枢と摂食中枢です。ある実験で、満腹中枢を破壊されたネコはどんどん食べて太り、摂食中枢を破壊されたネコは食事を全くしなくなり、栄養失調になってしまいました。
また、人間の食欲中枢は精神機能をもつ大脳皮質とつながっているので、心理状態が食欲に大きく関係します。例えば、心が満たされているときは食事がおいしく、うつ状態のときは箸が進まないこともあります。
2 過食と拒食
・極端なストレスが、過食や拒食を引き起こす
食事そのものがストレス解消のための精神安定剤的役割をしていることもあります。極端なストレスを受けると、手当たり次第に食べてしまう大食症候群、一日に食べる量の半分以上を夜に食べる夜食症候群などがその例です。
この作用の原因としては、脳内で麻酔作用を起こすβ一エンドルフィンの分泌の増加が考えられています。βーエンドルフィンは運動時に分泌が増加し、運動による苦しみや痛みなどを忘れさせる働きがあります。そして、食欲を増進させる働きも確認されています。
ストレスによって、食欲が低下する場合は、脳にあるCRFという副腎皮質刺激ホルモン放出因子の分泌増加がわかっています。
また、拒食症は若い女性に多く見られ、神経性食思不振症と呼ばれる心身症の一つです。これはやせたい一心で、減食や欠食を繰り返すうち、食欲中枢の機能が狂ってしまうために起こる疾患です。
3 食生活とストレス
・食生活の乱れがストレスに
私たちのからだは、一定のリズムによって保たれています。例えば、体温は早朝は低く、午後は高い。睡眠は夜、昼間は起きて活動するというようにリズムがあり、消化酵素も動物実験によると、夜行性のラットの腸内消化酵素は午後8時から午前4時がピークになるよう機能しています。ですから、生活や食事のリズムの狂いもまた、ストレスにつながると考えられます。
確かに、夜食や欠食が多い人、おなか一杯食べる傾向の人、調理ずみ食品をよく食べる人のほうが、イライラしたり、頭が重かったり、動悸や息苦しさを感じるなど自律神経失調症の症状を自覚しているという調査結果が出ています。
ストレスの影響を小さくするための栄養
では、ストレスによる影響を小さくするにはどのような栄養をとればいいのでしょうか。
ストレスの影響度は、自覚症状の他に尿中のカテコールアミン(ノルアドレナリン,アドレナリン,ドーパミン等)の排泄量を調べることでも確認できます。
カテコールアミンはストレスから自分を守ろうとすると、副腎からの分泌量が多くなるので、ストレスを受けたとき、からだに抵抗性があると尿中のカテコールアミン排出量が増えるのです。
1 ストレスと食事の栄養バランスの関係
・栄養のバランスがいいとストレスも小さい
日ごろの食事が、日本人の栄養所要量の平均を超えているグループ(Aグループ)とそれに満たないグループ(Bグループ)を同じストレス下におき、ストレスの度合を調べました。
ストレスは、遊園地でジエットコースターに乗る、1日6時間計算問題を解く、1日6時間室温4度の寒い部屋にいる、一泊旅行に行くという4種類でした。
その結果、ストレスを加えると、そうでない日にくらベ、自覚症状も尿中カテコールアミン排泄量も大きくなることがわかりました。ただし、小旅行に関しては自覚症状は少なく、これは気分転換の要素もあるので、快いストレスといえそうです。
そして、Aグループの栄養所要量の高いグループのほうが自覚症状は少なく、尿中カテコールアミンの排泄量は多いと出ています。つまり、バランスのよい食事をとっているほうがストレスに対する抵抗性があり、ストレスが小さくてすむのです。
・ストレスに抵抗力がつく食べものは緑黄色野菜
大企業の営業マン66人を対象に、ストレスの自覚症状とよく食べる食品をたずねたところ、ストレスを強く感じていた人たちがよく食べていたのは豆類や肉類、魚介類や乳製品で、野菜、果物は少なく、特に緑黄色野菜をあまり食べていないという結果が出ました。
また、女子大学生14人を対象にした調査では、乳製品、野菜、果物をたくさん食ベ、菓子類をあまり食べないグループのほうが、菓子類を多く食ベ、野菜が少ないグループより、ストレスをあまり感じていませんでした。そして、ストレスを加えた場合、特に初日のストレスの自覚症状は少なく、尿中アドレナリン排出量が顕著に増えていたグループは、野菜・果物を多く食べるグループでした。
これらの結果から、食品のなかで緑黄色野菜を中心とした野菜、果物、乳製品、魚介類などのビタミン、ミネラル、たんぱく質が多く含まれている食品が、ストレスに対する抵抗力を高めてくれると思われます。
2 たんぱく質をとる
・ストレスによって分解されたたんぱく質を補給しよう
次に、主要な栄養素とストレスの関係を見てみましょう。
ストレスと最も関係が深い栄養素は、たんぱく質とビタミンCです。ストレスが加わると、副腎皮質ホルモンによって、たんぱく質が分解され、そのため窒素が尿のなかに排泄されることがわかっています。
例えば、外科手術を受けると、1日7gのたんぱく質に相当する窒素が尿とともに排泄されますし、断眠などで生活のリズムが乱れた場合、窒素排出量が通常より6〜20%増えています。
たんぱく質は細胞の主要な構成成分であり、ホルモンや酵素を形づくったり、血液中で酵素を運んだり、脂質の運搬にも必要なものです。ですから、ストレスによってたんぱく質が分解されたら、補給する必要があります。
3 ビタミンCをとる
・ストレスはビタミンCの消費を促進する
ビタミンCが不足すると、組織と組織を結び付けているコラーゲンと呼ばれる結合組織がゆるくなり、毛細血管などから血がにじみ出たりします。また、ビタミンCは、副腎皮質などから分泌されるホルモンの合成にも欠かせません。このようにビタミンCは、健康にとって重要な栄養素ですが、強いストレスを受けると、ホルモンが多量に分泌されるので、ビタミンC不足が起きやすくなります。
また、ビタミンCは、白血球のなかにも多く含まれていて、免疫能力を高める作用があります。ですから、ストレスによって免疫能力の低下が起こった際、ビタミンCの摂取は効果的です。ストレスを感じたら、ビタミンC不足にならないよう、気をつけましょう。
4 ビタミンAやβ-カロテンをとる
・ビタミンAは粘膜を保護してくれる
ビタミンA不足はトリ目になるといわれますが、ビタミンAには、皮膚の角質化を防いだり、粘膜を保護する働きがあります。ストレス時は胃腸の粘膜障害が起きやすいので、ビタミンAの補給も積極的にしたいものです。
・β-カロテンは体内の酸化を抑える
β−カロテンは体内でビタミンAに変わるだけでなく、ビタミンCやEと同様に、酸化を抑える働きをもっています。高齢やストレスで、からだの抵抗力が弱まると、酸化のため細胞が傷つき、老化を促進する原因にもなってしまいます。β−カロテンをとり、ストレスによって起こる体内の酸化を抑えることで、老化の進行を遅らせることができます。
5 ビタミンBをとる
・過労のときはビタミンBの補給を
ビタミンB1は糖質の代謝を助ける補酵素として働き、ビタミンB2は体内の酸化還元の働きを助けます。ストレスでエネルギーの代謝が高まると、ビタミンB1、B2の消費が進み、補給が必要になります。
また、ビタミンB1は、中枢神経の細胞膜に作用し、神経細胞の興奮伝達を行っています。ですから、神経を使う仕事が続いたときや過労のときは、ビタミンB1が消費されていますので、補給が必要です。
一方、ビタミンB2が欠乏すると、胃粘膜の障害が起こるという報告もあります。
6 ミネラル分をとる
・カルシウム不足は神経などの興奮を高める
体内にあるカルシウムの99%が骨に含まれており、残りの1%が血液中に含まれています。血液中のカルシウムは血液の凝固に欠かせないもので、とても重要な働きをしています。また、細胞膜を通して、物質の流れを調整するという重要な働きや神経の伝達にも欠かすことができないものです。ですから、不足した場合は神経や筋肉の興奮性が高まってしまいます。
しかし、一般にイライラしたらカルシウムをとるとよいといわれますが、実際には、神経や筋肉の興奮を高めるほどカルシウムが不足することはめったにありません。
・マグネシウム欠乏はうつ状態を引き起こす
マグネシウムが欠乏すると、筋肉のけいれんや、うつ状態、不安、錯乱などの精神症状があらわれます。しかもカルシウムを多くとっていても、マグネシウムの摂取量が少ないと、心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患の死亡率が高いことがわかっています。
マグネシウムはエネルギー代謝や体温調節、神経の興奮、筋肉の収縮、ホルモンの分泌に関係しているので、ストレス時には、消費が増え、尿中に排出される量が減ります。
・ナトリウムの摂取過多は高血圧の原因に
ナトリウムやカリウムは、体液の浸透圧や酸・アルカリのバランスを維持するために必要です。ストレスによって、血清ナトリウム濃度が高まり、血清カリウムの濃度が低下します。血清ナトリウムが増えるということは、体内にナトリウムを蓄積することにつながり、高血圧の原因にもなることがわかっています。
おわりに
“食事はバランスよく”といわれますが、ストレス対策においても同じことがいえます。ストレスに強くなる食生活を考えるとすれば、そのポイントは、
(1)食事は規則正しくとり、欠食・間食はさける
(2)やけ食い、衝動食いはしない
(3)たんぱく質、ビタミンA・Cを十分にとる
(4)カルシウムなどミネラル分を十分とる
という具合になります。
言いかえれば、ストレスを小さくするためには緑黄色野菜や果物、牛乳、魚介類などをとり、偏食しないようにすることが重要です。
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しかし、ストレス対策はまだまだ十分とはいえません。心身症で胃腸などの消化器官に障害が起きると、当然、食事や栄養摂取にも影響が出て、問題はさらに大きくなります。そこで、食事や栄養とストレスの関係を探り、ストレス対策を具体的に考えていきましょう。
ストレスのメカニズム
人間のからだはある刺激(ストレッサー)を受けると、これに反応して、刺激の影響を最小限に抑え、普段の状態を保とうとする働きが起こります。この反応をホメオスターシス(恒常性維持機能)と呼びます。しかし、ストレスが長く続くと、ストレスに対する抵抗性が低くなり、抑制がきかず、もとの状態にもどりにくくなります。ホメオスターシスの維持は、自律神経系やホルモンなどの内分泌系がつかさどっています。
1 ストレスと自律神経
・自律神経の働きの乱れは胃潰瘍の誘因に
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経は争いをしているときや、恐怖を感じているときなどの緊急時に活動し心拍数の増加、血管の収縮、汗の分泌増加などの作用をします。
一方、副交感神経は平常時に唾液や胃酸の分泌を増やすなど、胃腸の働きを調整するために作用します。この2つの神経系は、エネルギーを消費する方向と回復する方向の両方にバランスよく働いています。
ところが、からだが危機にさらされると、自律神経系のバランスが崩れます。例えば、精神的・心理的なストレスが加わると、交感神経系は胃壁の血管を収縮させます。すると胃の組織に栄養分や酸素が十分行きわたらなくなるので、胃を守ろうとする要素が弱くなります。しかも、副交感神経系の働きで、胃液の分泌が増え、胃壁は攻撃されます。つまり、交感神経と副交感神経の働きが乱れると、胃の粘膜が傷つき、胃潰瘍の原因になります。
また、心身症の代表的な疾患である過敏性大腸症もストレスが原因で起こります。これは下痢と便秘が交互に繰り返される疾患ですが、これも胃液の分泌を増やす副交感神経の働きと、胃腸の働きを抑制する交感神経の働きのために起きる症状です。胃腸の異常は食欲や消化・吸収にも影響を与え、ともすればストレスによる栄養不足を招きかねません。
2 ストレスとホルモン分泌
・ストレスで、ホルモンの分泌が増える
ストレスは、脳にある副腎皮質刺激ホルモンを分泌させ、糖質や脂質、タンパク質といったエネルギー代謝をさかんにします。
他にも、骨の成長やタンパク質の合成を促す成長ホルモンや代謝をよくする甲状腺刺激ホルモンの分泌も増え、酸素の消費量が増加します。つまり、ストレス時には、たくさん分泌されるホルモンのため、エネルギー代謝がさかんになり、多くの栄養素が消費されることになります。
3 ストレスと脳内神経伝達物質
・脳内神経伝達物質は学習・思考・記憶に関係する
ストレスによって心にまで変化が起こるのかどうかを科学的に説明することは因難です。ただ、脳にある、学習や思考、記憶に関係が深い神経伝達物質の働きは、ストレスによって変化することが動物実験によってわかってきています。ストレスが加わると、ノルアドレナリンという脳の神経細胞から出る刺激伝達物質がたくさん分泌されるようになるため、ストレスは情緒や記憶などに対してもなんらかの作用を及ぼすと推測されています。
ストレスと食事の関係
1 ストレスと食欲
・ストレスの影響は食欲にもあらわれる
悲しいことがあると、食事がのどを通らなかったり、イライラしてやけ食いをしたという経験がある人は多いのではないでしょうか。
食欲をコントロールしているのは、脳にある満腹中枢と摂食中枢です。ある実験で、満腹中枢を破壊されたネコはどんどん食べて太り、摂食中枢を破壊されたネコは食事を全くしなくなり、栄養失調になってしまいました。
また、人間の食欲中枢は精神機能をもつ大脳皮質とつながっているので、心理状態が食欲に大きく関係します。例えば、心が満たされているときは食事がおいしく、うつ状態のときは箸が進まないこともあります。
2 過食と拒食
・極端なストレスが、過食や拒食を引き起こす
食事そのものがストレス解消のための精神安定剤的役割をしていることもあります。極端なストレスを受けると、手当たり次第に食べてしまう大食症候群、一日に食べる量の半分以上を夜に食べる夜食症候群などがその例です。
この作用の原因としては、脳内で麻酔作用を起こすβ一エンドルフィンの分泌の増加が考えられています。βーエンドルフィンは運動時に分泌が増加し、運動による苦しみや痛みなどを忘れさせる働きがあります。そして、食欲を増進させる働きも確認されています。
ストレスによって、食欲が低下する場合は、脳にあるCRFという副腎皮質刺激ホルモン放出因子の分泌増加がわかっています。
また、拒食症は若い女性に多く見られ、神経性食思不振症と呼ばれる心身症の一つです。これはやせたい一心で、減食や欠食を繰り返すうち、食欲中枢の機能が狂ってしまうために起こる疾患です。
3 食生活とストレス
・食生活の乱れがストレスに
私たちのからだは、一定のリズムによって保たれています。例えば、体温は早朝は低く、午後は高い。睡眠は夜、昼間は起きて活動するというようにリズムがあり、消化酵素も動物実験によると、夜行性のラットの腸内消化酵素は午後8時から午前4時がピークになるよう機能しています。ですから、生活や食事のリズムの狂いもまた、ストレスにつながると考えられます。
確かに、夜食や欠食が多い人、おなか一杯食べる傾向の人、調理ずみ食品をよく食べる人のほうが、イライラしたり、頭が重かったり、動悸や息苦しさを感じるなど自律神経失調症の症状を自覚しているという調査結果が出ています。
ストレスの影響を小さくするための栄養
では、ストレスによる影響を小さくするにはどのような栄養をとればいいのでしょうか。
ストレスの影響度は、自覚症状の他に尿中のカテコールアミン(ノルアドレナリン,アドレナリン,ドーパミン等)の排泄量を調べることでも確認できます。
カテコールアミンはストレスから自分を守ろうとすると、副腎からの分泌量が多くなるので、ストレスを受けたとき、からだに抵抗性があると尿中のカテコールアミン排出量が増えるのです。
1 ストレスと食事の栄養バランスの関係
・栄養のバランスがいいとストレスも小さい
日ごろの食事が、日本人の栄養所要量の平均を超えているグループ(Aグループ)とそれに満たないグループ(Bグループ)を同じストレス下におき、ストレスの度合を調べました。
ストレスは、遊園地でジエットコースターに乗る、1日6時間計算問題を解く、1日6時間室温4度の寒い部屋にいる、一泊旅行に行くという4種類でした。
その結果、ストレスを加えると、そうでない日にくらベ、自覚症状も尿中カテコールアミン排泄量も大きくなることがわかりました。ただし、小旅行に関しては自覚症状は少なく、これは気分転換の要素もあるので、快いストレスといえそうです。
そして、Aグループの栄養所要量の高いグループのほうが自覚症状は少なく、尿中カテコールアミンの排泄量は多いと出ています。つまり、バランスのよい食事をとっているほうがストレスに対する抵抗性があり、ストレスが小さくてすむのです。
・ストレスに抵抗力がつく食べものは緑黄色野菜
大企業の営業マン66人を対象に、ストレスの自覚症状とよく食べる食品をたずねたところ、ストレスを強く感じていた人たちがよく食べていたのは豆類や肉類、魚介類や乳製品で、野菜、果物は少なく、特に緑黄色野菜をあまり食べていないという結果が出ました。
また、女子大学生14人を対象にした調査では、乳製品、野菜、果物をたくさん食ベ、菓子類をあまり食べないグループのほうが、菓子類を多く食ベ、野菜が少ないグループより、ストレスをあまり感じていませんでした。そして、ストレスを加えた場合、特に初日のストレスの自覚症状は少なく、尿中アドレナリン排出量が顕著に増えていたグループは、野菜・果物を多く食べるグループでした。
これらの結果から、食品のなかで緑黄色野菜を中心とした野菜、果物、乳製品、魚介類などのビタミン、ミネラル、たんぱく質が多く含まれている食品が、ストレスに対する抵抗力を高めてくれると思われます。
2 たんぱく質をとる
・ストレスによって分解されたたんぱく質を補給しよう
次に、主要な栄養素とストレスの関係を見てみましょう。
ストレスと最も関係が深い栄養素は、たんぱく質とビタミンCです。ストレスが加わると、副腎皮質ホルモンによって、たんぱく質が分解され、そのため窒素が尿のなかに排泄されることがわかっています。
例えば、外科手術を受けると、1日7gのたんぱく質に相当する窒素が尿とともに排泄されますし、断眠などで生活のリズムが乱れた場合、窒素排出量が通常より6〜20%増えています。
たんぱく質は細胞の主要な構成成分であり、ホルモンや酵素を形づくったり、血液中で酵素を運んだり、脂質の運搬にも必要なものです。ですから、ストレスによってたんぱく質が分解されたら、補給する必要があります。
3 ビタミンCをとる
・ストレスはビタミンCの消費を促進する
ビタミンCが不足すると、組織と組織を結び付けているコラーゲンと呼ばれる結合組織がゆるくなり、毛細血管などから血がにじみ出たりします。また、ビタミンCは、副腎皮質などから分泌されるホルモンの合成にも欠かせません。このようにビタミンCは、健康にとって重要な栄養素ですが、強いストレスを受けると、ホルモンが多量に分泌されるので、ビタミンC不足が起きやすくなります。
また、ビタミンCは、白血球のなかにも多く含まれていて、免疫能力を高める作用があります。ですから、ストレスによって免疫能力の低下が起こった際、ビタミンCの摂取は効果的です。ストレスを感じたら、ビタミンC不足にならないよう、気をつけましょう。
4 ビタミンAやβ-カロテンをとる
・ビタミンAは粘膜を保護してくれる
ビタミンA不足はトリ目になるといわれますが、ビタミンAには、皮膚の角質化を防いだり、粘膜を保護する働きがあります。ストレス時は胃腸の粘膜障害が起きやすいので、ビタミンAの補給も積極的にしたいものです。
・β-カロテンは体内の酸化を抑える
β−カロテンは体内でビタミンAに変わるだけでなく、ビタミンCやEと同様に、酸化を抑える働きをもっています。高齢やストレスで、からだの抵抗力が弱まると、酸化のため細胞が傷つき、老化を促進する原因にもなってしまいます。β−カロテンをとり、ストレスによって起こる体内の酸化を抑えることで、老化の進行を遅らせることができます。
5 ビタミンBをとる
・過労のときはビタミンBの補給を
ビタミンB1は糖質の代謝を助ける補酵素として働き、ビタミンB2は体内の酸化還元の働きを助けます。ストレスでエネルギーの代謝が高まると、ビタミンB1、B2の消費が進み、補給が必要になります。
また、ビタミンB1は、中枢神経の細胞膜に作用し、神経細胞の興奮伝達を行っています。ですから、神経を使う仕事が続いたときや過労のときは、ビタミンB1が消費されていますので、補給が必要です。
一方、ビタミンB2が欠乏すると、胃粘膜の障害が起こるという報告もあります。
6 ミネラル分をとる
・カルシウム不足は神経などの興奮を高める
体内にあるカルシウムの99%が骨に含まれており、残りの1%が血液中に含まれています。血液中のカルシウムは血液の凝固に欠かせないもので、とても重要な働きをしています。また、細胞膜を通して、物質の流れを調整するという重要な働きや神経の伝達にも欠かすことができないものです。ですから、不足した場合は神経や筋肉の興奮性が高まってしまいます。
しかし、一般にイライラしたらカルシウムをとるとよいといわれますが、実際には、神経や筋肉の興奮を高めるほどカルシウムが不足することはめったにありません。
・マグネシウム欠乏はうつ状態を引き起こす
マグネシウムが欠乏すると、筋肉のけいれんや、うつ状態、不安、錯乱などの精神症状があらわれます。しかもカルシウムを多くとっていても、マグネシウムの摂取量が少ないと、心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患の死亡率が高いことがわかっています。
マグネシウムはエネルギー代謝や体温調節、神経の興奮、筋肉の収縮、ホルモンの分泌に関係しているので、ストレス時には、消費が増え、尿中に排出される量が減ります。
・ナトリウムの摂取過多は高血圧の原因に
ナトリウムやカリウムは、体液の浸透圧や酸・アルカリのバランスを維持するために必要です。ストレスによって、血清ナトリウム濃度が高まり、血清カリウムの濃度が低下します。血清ナトリウムが増えるということは、体内にナトリウムを蓄積することにつながり、高血圧の原因にもなることがわかっています。
おわりに
“食事はバランスよく”といわれますが、ストレス対策においても同じことがいえます。ストレスに強くなる食生活を考えるとすれば、そのポイントは、
(1)食事は規則正しくとり、欠食・間食はさける
(2)やけ食い、衝動食いはしない
(3)たんぱく質、ビタミンA・Cを十分にとる
(4)カルシウムなどミネラル分を十分とる
という具合になります。
言いかえれば、ストレスを小さくするためには緑黄色野菜や果物、牛乳、魚介類などをとり、偏食しないようにすることが重要です。
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