不飽和脂肪酸をかんがえる

ここでは、 不飽和脂肪酸をかんがえる に関する情報を紹介しています。
近年、日本人の脂肪の摂取量は著しく増加しました。いわゆる食生活の欧米化が急速に進んだ結果といえます。
 そうした流れの中で今、植物油や魚油が、“健康志向の脂肪”として注目され、好んで使われているようです。

・油と健康の情報の氾濫
「健康に良いリノール酸がたっぷり」とか「魚を食べると頭が良くなる」といった、“油”に関するいろいろな情報が氾濫しています。互いに矛盾するような情報も少なくなく、果たして健康のために特定の食品を摂ってよいものかどうか、混乱も見られるようです。
 しかし、その一方で「リノール酸のとりすぎ」の害もいわれ始めています。リノール酸をとりすぎると、動脈硬化を促進したり、各種のがんを誘発しやすい、という類いです。

・不飽和脂肪酸の中の必須脂肪酸
 油脂(食品に含まれる脂肪)をめぐってよく話題にのぼるリノール酸などの脂肪酸は、不飽和脂肪酸中の必須脂肪酸です。
 この必須脂肪酸については、その働きや生理的効果についてのたくさんの研究があり、説もさまざまです。

不飽和脂肪酸とはなにか

 私たちの食べる動物性・植物性の食品に広く含まれる化合物の一種に脂質(脂肪)があります。この脂肪は、脂肪酸とグリセロールからできています。

1 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

・分子内の結合で区別される
 脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に区別されます。脂肪酸は炭素原子が鎖のように連なってできています。そしてたとえていえば炭素原子は4本の手をもっていて、そのうち2本の手が水素原子と、あとの2本の手が他の炭素の手とつなぎあって鎖状になっています。そして水素原子と炭素原子がすべて結びついているものを飽和脂肪酸といいます。一方炭素原子の1本の手が水素原子を離し、その手で炭素どうしが互いに2本の手でつなぎ合った部分(二重結合)をもつものを不飽和脂肪酸といいます。この二重結合が1個のものを一価不飽和脂肪酸、2個以上のものを多価不飽和脂肪酸といい、多価不飽和脂肪酸はさらに、二重結合の位置によってn−3系、n−6系に分類されます。

・こんな食品に含まれている
 飽和脂肪酸は、パーム油、ヤシ油などの一部の植物油、バター、ラードなど一般動物脂肪に主として含まれています。一方、不飽和脂肪酸は、大豆油、コーン油、紅花油などの大部分の植物油、鯨油、魚油などに多く含まれています。飽和・不飽和脂肪酸の両方が大部分の食品にはいろいろな程度で含まれています。

・脂肪酸の性質による分類
 もうひとつの分類法があります。その脂肪酸の持つ性質による分類です。
 たとえば、飽和脂肪酸は常温で固体になります。しかし、一価不飽和脂肪酸(炭素原子間の二重結合が1個しかない不飽和脂肪酸)は常温で液体、冷蔵庫内では固体になります。多価不飽和脂肪酸(炭素原子間の二重結合が2個以上ある不飽和脂肪酸)は常温でも冷蔵庫内でも液状です。

2 なぜ“必須脂肪酸”と呼ぶのか

・体内で合成できる脂肪酸とできない脂肪酸がある
 人間はほとんどの必要な脂肪酸を体内で合成することができます。ところが、多価不飽和脂肪酸のうちの「リノール酸」「α一リノレン酸」「アラキドン酸」の3種は合成できません。
 しかも、これらは人体の成長や健康を保つために欠かせないものです。このため必須脂肪酸と呼ばれるのです。

・n−3系とn−6系の脂肪酸
 必須脂肪酸の中でも人体にとって重要なのは先ほどふれた「n−3系」や「n一6系」といわれる脂肪酸です。n−3系にはα−リノレン酸(根菜類、一部の植物油)が、n一6系は主としてリノール酸(植物油)が含まれています。

必須脂肪酸のはたらき

 からだの各組織が正常にはたらくためには必須脂肪酸が不可欠であるといわれています。必須脂肪酸欠乏食を与えた動物実験によると、成長阻害・皮膚症状をきたしたと報告されています。

・n−3系脂肪酸のはたらき
 最近の報告によると、血清脂質(コレステロール)の改善、血栓防止、血圧低下などの効果が知られています。
 また、ラットを使った実験(人間に対する効果は証明されていない)などから、n−6系にくらベ、記憶学習能力や網膜機能(視力に関係する光応答能など)を保つはたらきがあるという説もあります。

・n−6系脂肪酸のはたらき
 ラットの実験で欠乏により成長が妨げられたり皮膚が乾燥するなどの報告があります。ヒトについても欠乏すれば、同じく皮膚の異常や組織再生力減退、病気に感染しやすくなるなどの悪影響が生ずるといわれています。

必須脂肪酸の必要摂取量

1 必要摂取量に関するいろいろな説

 どのくらいの必須脂肪酸を摂ればよいのかについてのはっきりした答はまだありません。さまざまな研究があり、諸説があります。

2 脂肪摂取量の実態

 最近の国民栄養調査の結果によると、日本人の脂肪摂取の平均値(全国平均)は約60g(1人1日あたり)です。
 総エネルギーの中に占める脂肪エネルギーのパーセンテージは、上限としている25%を超えており、脂肪の摂取量不足による疾患も少なくなっています。

脂肪・脂肪酸の上手な摂り方

“脂肪”はきわめて重要な栄養素です。まったく摂らなくても困りますが、摂りすぎてもまた困るのです。

1 動物性脂肪と植物性脂肪の割合

 脂肪は動物性と植物性の2つに大別できます。これらをどのくらいの割合でどう摂るかがまず第一のポイントです。

・動物性脂肪と植物性脂肪の割合を1対1〜2に
 現在、動物性脂肪(魚油を除く)1に対し、植物性脂肪(魚油を含む)は1ないし2くらいの比率がよいとされています。
 また、国民栄養調査の結果からみたP/S比(多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の割合)も全国平均でほぼ1.0でした。このあたりが一応の目安といえましょう。

・バランスが大切
 もっとも大切なのは、ある特定の脂肪にばかり偏らないことです。たとえば紅花油がよいといってそればかり集中的に摂取するようなことは感心できません。
 一種類の脂肪を過剰に摂取するのでなく、多種類の脂肪をほどよく摂ることが大切です。

・他の栄養素とのバランスも考えて
 もうひとつは、たんぱく質や糖質など他の栄養素とのバランスです。
 脂肪にのみ関心を向けるのでなく、他の栄養素とも均衡がとれるように食生活を工夫しましょう。

2 必須脂肪酸の上手な摂り方

・n−3系と n−6系の比率
 最近の報告によると、n−3系の多価不飽和脂肪酸の摂取量が減少し、かわってn−6系の多価不飽和脂肪酸の摂取量が増えているようです。
 そこでn−3系とn−6系の摂取比率はどのくらいが望ましいのかがポイントになってきます。しかし残念ながら、この点もまだ定説はありません。「5以下が自然」とか「脳や網膜機能のためには4〜10が必要」(いずれもn−3系に対するn−6系比)とかいろいろなことがいわれています。
 また、同じn−3系のなかでも、α‐リノレン酸、EPA、DHAの効果には、それぞれいくらかの差違がありますので、その意味でも、多数の食品からのバランスのよい摂り方が重要になります。

・n−3系多量摂取の害
 血栓症や動脈硬化の予防になるといって、n−3系脂肪酸を多く含む魚油を大量に摂ろうという考え方がみられます。
 しかし、一つの食品成分のみに偏りすぎるのも問題で、やはり適量というものがあります。摂りすぎると、出血傾向、肝臓障害、心筋障害、動脈硬化促進などを起こしてしまう恐れがあります。

・n−6系脂肪酸多量摂取の害
 免疫力低下、細胞の老化促進、がんの増悪などの恐れが指摘されています。
 こうした障害を起こさないために、魚油摂取もほどよいところが望まれます。

3 必須脂肪酸を多く含む食品

 わたしたちのからだに欠かすことのできない必須脂肪酸を多く含む食品には、n−6系列のものは食用油、豆類、卵、獣鳥肉類、乳製品など、n−3系列のものについては、野菜類、魚介類などがあります。
 しかし、これらの食品だけを集中的に摂ればよいわけではありません。全体的なバランスの維持が大切なのです。

4 メニュー、調理に工夫して

・リノール酸系脂肪酸を多く含む食品
 紅花油、ひまわり油、綿実油、コーン油、ごま油などの各種植物系油を中心とする食品です。
 手軽で健康的な食品というイメージがありますが、すべての調理をこれらの食品で、というのは考えものです。他の脂肪酸を含む食品との組み合わせが望まれます。

・α-リノレン酸を多く含む食品
 しそ(えごま)油にとりわけ多く含まれています。ついで、他の調理油やくるみ、マヨネーズにも含まれています。

・EPA、DHAを含む食品
 EPA(イコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)は、α−リノレン酸とともに n−3系の多価不飽和脂肪酸です。
 1970年代に、グリーンランドのエスキモー調査により注目されました。彼らが高脂肪食を摂っているにもかかわらず、動脈硬化や血栓疾患が少なかったからです。このとき彼らの血中にEPA、DHAが高値で認められ、摂取脂肪の“質”の重要性が明らかになりました。
 EPA、DHAは魚類、中でも一般に油の多いサバ、イワシ、ブリ、マグロなどに多く含まれています。また季節による変動や、エサによる差異もかなり大きいといわれています。

油の栄養と健康問題のいろいろ

・適量を“食物”から摂りたい
 人体にとって油脂が必要であることは明確です。ただ大切なのは必要量をバランスよく摂取することです。
 適当と思われる量を“食物”として取り入れるのが理想的です。

・脂質の栄養学的役割
 食用油や各種食品中の脂質には、つぎのような栄養学的役割があります。
1 効率のよいエネルギー源である
2 脂溶性ビタミンの体内利用効率を高める
3 必須脂肪酸の補給ができる
 このほか、油のうまみのもたらす味覚上の効果や、腹持ちのよさなどもあげられます。また、体内では貯蔵しやすい効率的なエネルギー源となっています。

・とりすぎれば害になる
 リノール酸やα−リノレン酸、EPA、DHA……、これらはいずれもからだに不可欠で有益な必須脂肪酸ですが、前述のように、摂りすぎれば“害”になります。

1 多価不飽和脂肪酸を含む食品の問題点

・過酸化物の生成が心配
 植物油(食用油)などの多価不飽和脂肪酸を含む食品には、思いがけない弱点があります。酸化されやすいため変性(酸敗)しやすいのです。
 変性によって生じた過酸化物は、下痢・腹痛の原因となるといわれています。テンプラ油を日に当てたり、くり返して使用(数回くらいなら可)しないようにしましょう。
 魚油も同じく酸敗しやすいので、調理の際には十分注意したいものです。魚類は鮮度が何よりも重要です。

2 油をめぐる嗜好の変化

・魚食に対する好みの変化
 最近の若年層には、「骨がある」「生臭い」あるいは「食べづらい」…などの理由で、魚を敬遠している恐れが指摘されています。魚食と健康の関係について一般の関心が高まっているにもかかわらず、国民全体の魚の摂取量もほとんど増えていません。動物性脂肪の摂取量が増えていることから、飽和脂肪酸の摂り過ぎが心配されています。魚も適切に取り入れた、偏りのない食事を習慣づけることが望まれます。

・“油づけ”の風潮
 動物性脂肪の多い食品に加え、食用油やマーガリンを使った高リノール酸含有食品があふれています。加工食品やスナック類、ファーストフードでも油脂をたくさん含んだ食品が売られていよす。“欧米化”した食生活は、まさに油づけの食生活であるといっても過言ではないようです。
 若い人たちの好む「ドレッシングたっぷりの野菜サラダ」は、むしろ脂肪の多い逆ダイエット食にもなりかねません。

おわりに

 不飽和脂肪酸や必須脂肪酸は大切ですが、それが過大に評価される一方で、その過剰摂取から新たな問題を生じる恐れがあります。偏った知識が逆効果を生んでしまうといえなくもありません。
 必須脂肪酸にも長所と短所があることを知り、結局のところはバランスのとれた食生活を心がけることが最も大切ということがいえましょう。

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