シュメール人も飲んでいた薬酒
いまから6千年前、メソポタミア地方に住んでいたシュメール人は、粘土板に楔形(くさびがた)文字を残している。解読作業が進み、病気のことやその治療方法についても、いろいろと明らかにされている。「薬草を干して粉末にし、それをビールに溶かして飲用すべし」といった記述が残っている。西暦200年頃、ローマで活躍したドクター・ガレンは、薬草をブドウ酒につけて飲んだ最初の人と伝えられている。中国で一番古い薬物書の『神農本草経』にも酒につけて飲むとよい薬のことが書かれている。紀元前千年頃、周の名君・周公旦がつくったとされる薬酒は、約20種類の薬草を漬け込んだもので、その名も「周公百歳酒」。強壮長寿の酒として伝承されている。中国の文化は日本に逐次伝わってきているが、その代表的な例が「屠蘇(とそ)酒」である(12月号を参照)。焼酎が日本でつくられるようになったのは、15〜6世紀で、民間でいろいろな薬酒をつくるようになるのはそれ以後ということになる。お屠蘇を飲む習慣が庶民の間に広まったのは江戸時代に入ってからだから、いわゆる薬用酒というものが一般化したのも同じ頃だろうと推測される。庶民は気力、体力を補い明日への活力を養う目的で薬用酒を飲んだ。しかし一部の上流階級の人たちはそのほかに、延年回春、精力増強といった効果も期待したのではないかと考えられる。
マムシ酒に噛みつかれた?
沖縄県には「古酒」がある。クースーと読み、琉球泡盛のことである。いま盛んにつくられているのが「海ヘビ酒」であり「ハブ酒」である。40度という高濃度の古酒の中に海ヘビやハブを入れても、1週間は生きているという。こうした薬味酒の売れ行きが伸びているのは健康保持、強壮強精を目的に愛飲する人が増えているからであろう。10年ほど前、関西のある村でこんな事件が起きた。生きたマムシを一升瓶に焼酎漬けにし、もういい頃だろうとラッパ飲みした人が、まだ生きていたマムシに噛みつかれたというのである。35度の焼酎でも、砂糖を入れるとアルコール度が薄まって20度くらいになる。それでマムシは生きながらえていたのだろうということだ。まことに強靭な生命力で、マムシに効能効果を期待する人が多いのも当然と言えば当然であろう。中国には3種類の蛇が互いに尻尾をくわえてつながり、輪になったまま酒に浸けられた「三蛇酒」という薬味酒がある。日本にも輸入されているので、ご存じの向きもあるであろう。
家庭でできる薬用酒
果実を漬け込んでつくる薬用酒の代表に梅酒がある。自家製の梅酒を一家で飲んでいる家庭が多いと思われるが、アルコールメーカーの話では、このところ35度の果実酒用の焼酎の売り上げは落ちているという。この忙しい現代、手間ひまかけてつくっているよりも、盛んに広告宣伝している製品を買って飲んだ方が楽だということなのだろうか。自分でつくった手づくりの味というのもなかなかいいものである。そこで果実酒、薬草酒の一般的なつくり方を紹介しておこう。
◯材料
果実は新鮮なものを選ぶ。成分の浸出がよく、香りや味わいが深く、果実酒にコクを与える酸味も多く含んでいるからである。水でよく洗い、十分にふいて漬ける。薬草もよく洗い、水分をふきとる。生の薬草が手に入らないときは漢方薬店で乾燥したものを買い、洗わずにそのまま漬け込む。
◯糖分
氷砂糖を使う。糖分は酒に甘味をつけるだけでなく、果実の成分浸出を助ける役割も果たす。酒にコクと深みをつけるのは酸味なので、酸味の少ない果実の場合は、皮をむいたレモンを一緒に漬け込む。
◯容器
漬かり具合や色の変化を確かめるため、密閉できて、内部がよく見える広口のガラス瓶を使う。
◯焼酎
35度の甲類焼酎を使う。連続蒸留したもので、クセがないからである。
◯熟成
容器に材料を入れ、その三倍量の焼酎を入れる。果実の柔らかいものは1〜2か月、堅いものは3〜6か月かかる。熟成したら実や薬草は引きあげて、ガーゼで漉(こ)して別の瓶に酒を移す。
◯保存
直射日光を避け、温度変化の少ない冷暗所で保存する。漬けた果実名、年月日、熟成期間などをメモし、瓶に貼っておく。
薬用酒に使う植物
薬用酒に使う植物はたくさんある。アマチャヅル、アンズ、イチゴ、イカリソウ、ウコギ、オタネニンジン、カリン、キンカン、クコ、サンショウ、ニンニク、ハマナス、ビワ、ユズ等で、つくり方のパンフレット等は酒屋さんでもらうことができる。
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いまから6千年前、メソポタミア地方に住んでいたシュメール人は、粘土板に楔形(くさびがた)文字を残している。解読作業が進み、病気のことやその治療方法についても、いろいろと明らかにされている。「薬草を干して粉末にし、それをビールに溶かして飲用すべし」といった記述が残っている。西暦200年頃、ローマで活躍したドクター・ガレンは、薬草をブドウ酒につけて飲んだ最初の人と伝えられている。中国で一番古い薬物書の『神農本草経』にも酒につけて飲むとよい薬のことが書かれている。紀元前千年頃、周の名君・周公旦がつくったとされる薬酒は、約20種類の薬草を漬け込んだもので、その名も「周公百歳酒」。強壮長寿の酒として伝承されている。中国の文化は日本に逐次伝わってきているが、その代表的な例が「屠蘇(とそ)酒」である(12月号を参照)。焼酎が日本でつくられるようになったのは、15〜6世紀で、民間でいろいろな薬酒をつくるようになるのはそれ以後ということになる。お屠蘇を飲む習慣が庶民の間に広まったのは江戸時代に入ってからだから、いわゆる薬用酒というものが一般化したのも同じ頃だろうと推測される。庶民は気力、体力を補い明日への活力を養う目的で薬用酒を飲んだ。しかし一部の上流階級の人たちはそのほかに、延年回春、精力増強といった効果も期待したのではないかと考えられる。
マムシ酒に噛みつかれた?
沖縄県には「古酒」がある。クースーと読み、琉球泡盛のことである。いま盛んにつくられているのが「海ヘビ酒」であり「ハブ酒」である。40度という高濃度の古酒の中に海ヘビやハブを入れても、1週間は生きているという。こうした薬味酒の売れ行きが伸びているのは健康保持、強壮強精を目的に愛飲する人が増えているからであろう。10年ほど前、関西のある村でこんな事件が起きた。生きたマムシを一升瓶に焼酎漬けにし、もういい頃だろうとラッパ飲みした人が、まだ生きていたマムシに噛みつかれたというのである。35度の焼酎でも、砂糖を入れるとアルコール度が薄まって20度くらいになる。それでマムシは生きながらえていたのだろうということだ。まことに強靭な生命力で、マムシに効能効果を期待する人が多いのも当然と言えば当然であろう。中国には3種類の蛇が互いに尻尾をくわえてつながり、輪になったまま酒に浸けられた「三蛇酒」という薬味酒がある。日本にも輸入されているので、ご存じの向きもあるであろう。
家庭でできる薬用酒
果実を漬け込んでつくる薬用酒の代表に梅酒がある。自家製の梅酒を一家で飲んでいる家庭が多いと思われるが、アルコールメーカーの話では、このところ35度の果実酒用の焼酎の売り上げは落ちているという。この忙しい現代、手間ひまかけてつくっているよりも、盛んに広告宣伝している製品を買って飲んだ方が楽だということなのだろうか。自分でつくった手づくりの味というのもなかなかいいものである。そこで果実酒、薬草酒の一般的なつくり方を紹介しておこう。
◯材料
果実は新鮮なものを選ぶ。成分の浸出がよく、香りや味わいが深く、果実酒にコクを与える酸味も多く含んでいるからである。水でよく洗い、十分にふいて漬ける。薬草もよく洗い、水分をふきとる。生の薬草が手に入らないときは漢方薬店で乾燥したものを買い、洗わずにそのまま漬け込む。
◯糖分
氷砂糖を使う。糖分は酒に甘味をつけるだけでなく、果実の成分浸出を助ける役割も果たす。酒にコクと深みをつけるのは酸味なので、酸味の少ない果実の場合は、皮をむいたレモンを一緒に漬け込む。
◯容器
漬かり具合や色の変化を確かめるため、密閉できて、内部がよく見える広口のガラス瓶を使う。
◯焼酎
35度の甲類焼酎を使う。連続蒸留したもので、クセがないからである。
◯熟成
容器に材料を入れ、その三倍量の焼酎を入れる。果実の柔らかいものは1〜2か月、堅いものは3〜6か月かかる。熟成したら実や薬草は引きあげて、ガーゼで漉(こ)して別の瓶に酒を移す。
◯保存
直射日光を避け、温度変化の少ない冷暗所で保存する。漬けた果実名、年月日、熟成期間などをメモし、瓶に貼っておく。
薬用酒に使う植物
薬用酒に使う植物はたくさんある。アマチャヅル、アンズ、イチゴ、イカリソウ、ウコギ、オタネニンジン、カリン、キンカン、クコ、サンショウ、ニンニク、ハマナス、ビワ、ユズ等で、つくり方のパンフレット等は酒屋さんでもらうことができる。
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