▼ がんと心
がんと心の関係を解明していく研究領域や、心理的側面を十分に配慮したがん診療は、最近ではサイコオンコロジ−と呼ばれるようになりましたが、サイコオンコロジーとは、がんに関して、
1. すべての病期にある患者やその家族・介護者(ケアギバ−)の情緒的な反応
2. 発症率や死亡率に影響を与える心理的・行動的・社会的因子
というふたつの心理的な側面を扱う領域であると定義されています。
わが国では従来、がん患者の心理社会的側面の臨床というと、タ−ミナルケアが連想されることが多く、緩和ケアやホスピスが話題にされることが多かったのですが、サイコオンコロジーといった場合にはそれが扱う領域は<図-1>に示したように非常に広いのです。いくつかの代表的な話題に触れます。
(1)がんの告知
がんの治療に関しては、1950年代に抗がん剤が開発されてから、治療成績が飛躍的に向上したといいます。この治療成績の向上は、「がんは必ずしも死を意味しない」というオプティミズムにつながり、1960年代のアメリカでは、真実を知りたいという社会運動と一緒になって、がんという病名を告知する風潮が生まれていったのです。そして、この傾向はその後急速に広まることになり、具体的には、1961年には88%の医師ががんを告知しないと答えたのに対して、1977年には98%の医師が告知していると答えるに至りました。しかし、わが国では医師と患者あるいは家族の間で「阿吽(あうん)の呼吸」と呼ばれる独特なコミュニケーションの仕方があり、現在でもがんの告知率は約30%と言われています。
(2)がん患者の抑うつ
がん患者は病名告知の有無にかかわらず、情緒的に不安定になるのは自然です。実際に、本邦でもがん患者における精神疾患の有病率が研究されてきていますが、それによれば、がん患者の30-40%にはうつ病や抑うつ反応がみられるといいます。しかし、がん患者はその原疾患や、抗がん剤療法・放射線療法などの治療によって、抑うつ感・食欲不振・体重減少・不眠など、うつ病 と非常に似た症状を呈することがあるため、診断は容易ではないようです。
(3)患者にとってのキーパーソン
がん患者の治療の際には、患者にとって誰が最も情緒的・心理的に助けになるか、すなわち患者にとってのキーパーソンを見つけておくと有益なことが多いようです。この場合、単に配偶者なら誰でもキーパーソンだろうと思うのは早計で、確かに、夫にとっての妻はキーパーソンになることが多いのですが、妻にとっては必ずしも夫が最も情緒的に近い存在ではないらしいのです。患者が女性の場合、その母親・娘・姉妹・親友など同性の人物がキーパーソンになることが多いと言われています。
(4)情緒状態とがんの進行
イギリスグレアー(Greer)らの研究によれば、がんに対する構え方や情緒状態によってがんの進行に差が生じたといいます。すなわち、乳がん手術後3カ月が経過した頃に面接したところ、がんに対して闘争心(ファイティング・スピリッツ)を有した群は、その後の経過を追った結果、最も生存期間が長かったというのです。逆に、絶望的になっている群は生存期間が最も短かったことが示されたのです。このような面からも、患者の情緒状態を正しく評価し、抑うつ的・絶望的になっているような場合には改善していかなければならないと言えるようです。
(5)がん患者のカウンセリング
アメリカでは、がん患者に対してカウンセリングを施行し、その後の経過を追ったプロスペクティブ・スタディが注目されています。具体的には、スピーゲル(Spiegel)が遠隔転移のある乳がん患者に対し、週1回の集団精神療法を施行したところ、平均生存期間が対照群と比較して2倍に延長していたことが示されました。また、フォージー(Fawzy)らが初期の悪性黒色腫の患者に6回だけカウンセリングを施行したところ、その後の再発率や死亡率に有意差が生じたといいます。サイコオンコロジーは最近になって注目されてきた臨床であり、研究領域です。1980年代になり、心と免疫機能の関係を扱う学問すなわち、精神神経免疫学という基礎医学的な方法論が確立されましたが、今後のサイコオンコロジ−領域での研究の発展のために理想的な条件が整ってきたと言えるのではないでしょうか。
<図−1>サイコオンコロジ−の領域
がんの経過 サイコオンコロジ−の領域
行動やライフスタイルと癌の疫学
病前性格と癌の疫学
ライフ・イベントと癌の疫学
癌への不安や恐怖
早期発見(自己検診・定期検診)
自覚症状 自覚症状の否認
受診 受診を遅らせる要因
診断を遅らせる要因
診断 本人や家族への告知と反応
コ−ピング・スタイル
手術 インフォ−ムド・コンセント
術前の不安
対象喪失と悲哀の仕事
術後のQOL
抗がん剤や放射線療法などの副作用
情緒状態とがんの経過
セルフ・ヘルプ・グル−プ
自然治癒
再発 本人や家族の反応
在宅ケア
疼痛対策
ターミナル 緩和ケア
ホスピス
安楽死と尊厳死
合理的自殺、医師による自殺幇助
ケア・ギバ−のストレス
スタッフのストレス
死亡 家族のグリ−フ・ワ−ク
http://www.net-dream.jp
1. すべての病期にある患者やその家族・介護者(ケアギバ−)の情緒的な反応
2. 発症率や死亡率に影響を与える心理的・行動的・社会的因子
というふたつの心理的な側面を扱う領域であると定義されています。
わが国では従来、がん患者の心理社会的側面の臨床というと、タ−ミナルケアが連想されることが多く、緩和ケアやホスピスが話題にされることが多かったのですが、サイコオンコロジーといった場合にはそれが扱う領域は<図-1>に示したように非常に広いのです。いくつかの代表的な話題に触れます。
(1)がんの告知
がんの治療に関しては、1950年代に抗がん剤が開発されてから、治療成績が飛躍的に向上したといいます。この治療成績の向上は、「がんは必ずしも死を意味しない」というオプティミズムにつながり、1960年代のアメリカでは、真実を知りたいという社会運動と一緒になって、がんという病名を告知する風潮が生まれていったのです。そして、この傾向はその後急速に広まることになり、具体的には、1961年には88%の医師ががんを告知しないと答えたのに対して、1977年には98%の医師が告知していると答えるに至りました。しかし、わが国では医師と患者あるいは家族の間で「阿吽(あうん)の呼吸」と呼ばれる独特なコミュニケーションの仕方があり、現在でもがんの告知率は約30%と言われています。
(2)がん患者の抑うつ
がん患者は病名告知の有無にかかわらず、情緒的に不安定になるのは自然です。実際に、本邦でもがん患者における精神疾患の有病率が研究されてきていますが、それによれば、がん患者の30-40%にはうつ病や抑うつ反応がみられるといいます。しかし、がん患者はその原疾患や、抗がん剤療法・放射線療法などの治療によって、抑うつ感・食欲不振・体重減少・不眠など、うつ病 と非常に似た症状を呈することがあるため、診断は容易ではないようです。
(3)患者にとってのキーパーソン
がん患者の治療の際には、患者にとって誰が最も情緒的・心理的に助けになるか、すなわち患者にとってのキーパーソンを見つけておくと有益なことが多いようです。この場合、単に配偶者なら誰でもキーパーソンだろうと思うのは早計で、確かに、夫にとっての妻はキーパーソンになることが多いのですが、妻にとっては必ずしも夫が最も情緒的に近い存在ではないらしいのです。患者が女性の場合、その母親・娘・姉妹・親友など同性の人物がキーパーソンになることが多いと言われています。
(4)情緒状態とがんの進行
イギリスグレアー(Greer)らの研究によれば、がんに対する構え方や情緒状態によってがんの進行に差が生じたといいます。すなわち、乳がん手術後3カ月が経過した頃に面接したところ、がんに対して闘争心(ファイティング・スピリッツ)を有した群は、その後の経過を追った結果、最も生存期間が長かったというのです。逆に、絶望的になっている群は生存期間が最も短かったことが示されたのです。このような面からも、患者の情緒状態を正しく評価し、抑うつ的・絶望的になっているような場合には改善していかなければならないと言えるようです。
(5)がん患者のカウンセリング
アメリカでは、がん患者に対してカウンセリングを施行し、その後の経過を追ったプロスペクティブ・スタディが注目されています。具体的には、スピーゲル(Spiegel)が遠隔転移のある乳がん患者に対し、週1回の集団精神療法を施行したところ、平均生存期間が対照群と比較して2倍に延長していたことが示されました。また、フォージー(Fawzy)らが初期の悪性黒色腫の患者に6回だけカウンセリングを施行したところ、その後の再発率や死亡率に有意差が生じたといいます。サイコオンコロジーは最近になって注目されてきた臨床であり、研究領域です。1980年代になり、心と免疫機能の関係を扱う学問すなわち、精神神経免疫学という基礎医学的な方法論が確立されましたが、今後のサイコオンコロジ−領域での研究の発展のために理想的な条件が整ってきたと言えるのではないでしょうか。
<図−1>サイコオンコロジ−の領域
がんの経過 サイコオンコロジ−の領域
行動やライフスタイルと癌の疫学
病前性格と癌の疫学
ライフ・イベントと癌の疫学
癌への不安や恐怖
早期発見(自己検診・定期検診)
自覚症状 自覚症状の否認
受診 受診を遅らせる要因
診断を遅らせる要因
診断 本人や家族への告知と反応
コ−ピング・スタイル
手術 インフォ−ムド・コンセント
術前の不安
対象喪失と悲哀の仕事
術後のQOL
抗がん剤や放射線療法などの副作用
情緒状態とがんの経過
セルフ・ヘルプ・グル−プ
自然治癒
再発 本人や家族の反応
在宅ケア
疼痛対策
ターミナル 緩和ケア
ホスピス
安楽死と尊厳死
合理的自殺、医師による自殺幇助
ケア・ギバ−のストレス
スタッフのストレス
死亡 家族のグリ−フ・ワ−ク
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